第3話

お前は、もう映ってない

翌日。

俺のチャンネルの登録者数は、五百万人を突破していた。

昨日まで、ゼロだったのに。

スマホの通知が、止まらない。

テレビ局、企業、ギルド――。

全世界から、コラボや出演の依頼が殺到していた。

呆然とスマホを眺めていると、玄関のチャイムが鳴った。

「天野陽斗くん、だね」

ドアの前に立っていたのは、銀髪のクールな女性だった。

「私は白河凛(しらかわ りん)。世界最強ギルド『アストレア』の、スカウト担当」

「アストレア……!?」

知らないわけがない。

ダンジョン攻略ランキング、世界一位のギルドだ。

「君の昨日の配信、見たわ」

白河さんは、まっすぐ俺を見た。

「あの裏ボス"獄鉄王"の弱点は、世界中の誰も見つけられなかった。なのに君は、初見で看破した。あれは、まぐれじゃない」

「いや、俺は、その……ただの底辺で……」

「観察眼。あれは、最高峰の探索者にだけ宿る才能よ」

白河さんは、静かに続けた。

「右拳を振り下ろした後、左肩が0.5秒だけ無防備になる――その一瞬に全てを賭けられる人間を、私は十年探して、初めて見た」

白河さんが、すっと手を差し出した。

「うちに来て。あなたを、世界の頂点に連れていく」

その時だった。

ドンドンドン!と、別の音。

「陽斗ーっ! 開けてくれよ、親友だろ!?」

その声に、背筋が凍った。

拓海だ。

ドアを開けると、息を切らした拓海が、満面の笑みで立っていた。

「いやー、昨日のヤバかったな! さすが俺の親友!」

「……」

「なあ、コラボしようぜ! 俺とお前で組めば、最強のチャンネルになる! 昨日のことは、ほら、ちょっとした行き違いってことで!」

行き違い。

俺を封鎖区画に置き去りにして、笑っていたあれが。

「拓海」

俺は、静かに口を開いた。

「お前さ、運営に『はぐれた』って報告するって言ってたよな」

「え……あ、ああ、心配で……」

「実際は、なんて報告したんだ?」

拓海の顔が、引きつった。

「昨日の配信、全部録画されてるんだ。お前が扉を閉めて、『底辺は邪魔』って言ったとこも、全部」

切り抜きは、すでに数千万回再生されていた。

コメント欄は、別の意味で燃え盛っていた。

『黒木拓海、最低すぎ』

『置き去りにした犯人こいつか』

『登録者解除した』

『人気配信者の本性ヤバすぎ』

『天野くん、よく生きて帰ったな……』

拓海のチャンネルは、昨夜から登録者が、激減していた。

「ち、ちが……っ、あれは編集で切り取られて……!」

「ノーカットで全世界に生配信されてたけどな」

「っ……!」

拓海が、言葉を失う。

俺は、ふっと笑った。

不思議と、もう怒りはなかった。

「コラボの件だけど」

「お、おう! やってくれるか!?」

「断る」

拓海の顔が、固まった。

「な……なんで……っ、親友だろ!?」

俺は、隣に立つ白河さんを見た。

彼女は、小さく頷いた。

「俺、アストレアに入るから」

「アストレア……!? 世界一位の!?」

「お前が一生かかっても入れない場所だよ」

スマホを取り出し、配信ボタンを押す。

赤いランプが、灯った。

視聴者数が、一瞬で五百万を超えた。

昨日のあれは、まぐれじゃなかった。

それを証明するように、コメントが歓声で埋まっていく。

「今日からここは、世界に向けて配信される。お前みたいなのが映ってると――」

俺は、カメラのフレームから拓海を、そっと外した。

「俺の格が、下がるんだ」

かつて、こいつが俺に言った言葉。

そっくりそのまま、返してやった。

「お前は、もう映ってない」

ドアが、静かに閉まる。

白河さんが、口元を緩めた。

「いい啖呵(たんか)だったわ。さあ、行きましょう」

差し出された手を、俺は今度こそ、しっかりと握った。

スマホの中で、コメントが滝のように流れていく。

『神回』

『ざまぁwwww』

『天野くん最高!!』

『一生ついていきます』

俺は、空を見上げた。

親父はきっと、あの石が魔物特効の希少鉱だと知っていた。

無能と笑われ続ける俺に、たった一つの手札を遺してくれた。

その意味が、今ようやく分かった。

もう、誰かに見下されながらじゃない。

胸を張って、前を向いて歩いていける。

「行こうか、白河さん」

「ええ」

陽の光が、まぶしかった。

ずっと裏方で、誰にも期待されなかった俺は。

ようやく、自分の人生の主役になった。

それで、もう十分だった。

第3話 お前は、もう映ってない

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BEYOND THE STORY

物語のあとに、残るもの。

『登録者0人の底辺配信者、裏ボスをワンパンする姿を全世界に生配信。』は、置き去りにされた底辺配信者の一撃が、世界に届いてしまう物語です。

冬野 結fuyuno yui

家族と、技術と、その間にこぼれ落ちるものを。
読後、少しだけ世界の見え方が変わる物語を書いています。