第14話

魔王の子だくさん

夫婦を演じていれば、いずれ、こういう話が出てくる。

世継ぎだ。

「御台をお迎えになって、はや幾月。そろそろ、お世継ぎの吉報を」と、家中の者が遠回しに、しかし執拗に、せっついてくる。家を継ぐ者が要る。それが、武家というものだ。

俺はこれが困った。子作りは求めぬ、というのが、帰蝶との契約だ。それ以前に、俺は自分の血を世に残すということが、どうにも怖い。

ある夜、俺は帰蝶に、その怖さを打ち明けた。

「俺はな……自分の子を持つのが、怖いのだ」

「ほう。なにゆえ」

「俺のような臆病者の血を引いた子が生まれてみろ。その子もまた、いつ殺されるかと、怯えて生きることになる。あの竹千代のように、人質に取られて、震えながら夜を数えることになるやもしれぬ。――そんな思いを、俺の子にさせたくない」

俺はうつむいた。

「それに、契約で結ばれた俺とお前の間に、無理に子を作るのも、お前への筋が通らぬ」

帰蝶はしばらく黙って、俺を見ていた。

それから、ふっと笑った。呆れたような、けれど、どこか温かい笑いだった。

「殿は、つくづく優しいお方じゃ」

「優しくなどない。ただ、臆病なだけだ」

「同じことよ」

帰蝶はそう言って、膝を進めた。

「ならば、こうなさいませ。世継ぎは――養子を、お取りなさい」

「養子……」

「身寄りのない子、縁ある家の子、引き取り手のない子。この乱世には、いくらでもおりましょう。そういう子らを引き取って、我が子として育てればよい。血のつながりなど、なくてよい。殿が、その子らを怯えずに生きられるよう守ってやれば、それで立派な親じゃ」

俺は目を見開いた。

そんなことが、許されるのか。

「それにな、殿」

帰蝶は悪戯っぽく目を細めた。蝮の娘の、本領が出る顔だ。

「子らをたんと取って、織田は子だくさん、と世に知らしめればよい。魔王の血筋は、いよいよ繁栄する――そう思わせておけば、誰も、織田を潰そうとは思わぬ。子が多いというのは、それだけで、家を守る盾になりまする」

なるほど、と俺は唸った。

引き取った子も、家を継ぐべく生まれた子も、すべて、ひとしく我が子として並べる。誰が血を分けた子で、誰がそうでないかなど、外には知らせぬ。ただ「織田には、頼もしい子らが大勢いる」とだけ、世に思わせる。

血の有無を、世間の目から、まるごと隠してしまう。それは、俺たちの契約結婚を、いちばん自然に守る道でもあった。

「お前は、本当に、知恵が回るな」

俺が心からそう言うと、帰蝶はつんと澄まして見せた。

「父譲りじゃ。蝮の娘を、侮りなさるな」

その夜から、俺の家族は、少しずつ、形になっていった。血ではなく、契約と、縁と、そして「守ってやりたい」という、ただそれだけの気持ちで結ばれた、奇妙な一家。

家中の者は、子らが増えていくのを見て、こう囁いた。

「魔王、一族郎党を従え、いよいよ盤石なり」と。

違う。

俺はただ、一人でも多くの怯える子を、夜の闇から、守ってやりたかっただけだ。

俺の家族は、血ではなく、縁で、結ばれていく。

それが、俺にはなによりも、しっくりきた。

第14話 魔王の子だくさん

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BEYOND THE STORY

物語のあとに、残るもの。

『信長の野望 本能寺は変』は、戦国一の臆病者が「ただの優しい人間」に戻りたくてもがく物語です。

冬野 結fuyuno yui

家族と、技術と、その間にこぼれ落ちるものを。
読後、少しだけ世界の見え方が変わる物語を書いています。