第47話

南蛮の胴

俺が、新しい時代を切り拓く革新の人だと。世間は、そう言う。

だが、本当のところは――俺はただ、固い胴着が欲しかっただけだ。

その頃、京(きょう)や堺(さかい)のあたりに、南蛮渡来の宣教師(せんきょうし)というものが出入りしていた。遠い、海の向こうの異国から、はるばる海を渡ってきた者たちだ。

俺は、彼らを城に招き、手厚くもてなした。南蛮の文化を保護してやり、布教も許してやった。

家臣たちは、それを見て感嘆した。

「殿は、遠き異国の文物すら、いち早く取り入れなさる」

「古い慣わしにとらわれず、新しき世を見据えておられる。なんと開かれたお方か」

だが、俺の本音は、信仰でも新しもの好きでもなかった。俺が宣教師を歓待した理由は、ただ一つ。

南蛮胴(なんばんどう)が、欲しかったのだ。

南蛮渡来の、あの鋼の胴着。聞けば、あれは鉄砲の弾すら弾き返すという。俺は、それを聞いた瞬間、心臓が跳ねた。

――鉄砲の弾を、防ぐ。

つまり、これさえ着ていれば。遠くから暗殺者に撃たれても。死なずに済むかもしれぬ。

俺は、宣教師に頼み込んで、その南蛮胴を手に入れた。夜、誰もいない部屋で、こっそりそれを着込んでみた。ずしりと、重い。だが、その重みが、たまらなく心地よかった。

これを着ていれば、撃たれても死なない。刺されても抜けない。俺は、しばらくその胴着を撫でて、うっとりとしていた。

宣教師には、ついでにこう頼んでおいた。

「同じものを、もっと取り寄せよ。望みのものは、何でもつかわす」

宣教師は、喜んだ。俺が、南蛮の文物に深い理解を示す稀有な大名だと、思ったらしい。

違う。俺はただ、固くて丈夫な胴着が、もっと欲しかっただけだ。

南蛮胴を着て、マントを羽織り、椅子に腰かけた俺の姿を見て、家臣はますます感じ入った。

「あの異形の御装束。まさに、新しき時代をその身にまとっておられる」

「世界の先を行くお方じゃ」

俺は、内心で苦笑いした。世界の先など、行っていない。俺はただ、撃たれて死ぬのが怖いだけだ。

ただ一人。藤吉郎だけは、俺の南蛮胴を見て、にやりと笑った。

「殿。ずいぶんと、ご立派な胴着で」

「……うむ」

「さぞや、固うございましょうなあ。弾も、刃も通さぬ固さで」

こいつは、分かっている。俺が、新しもの好きでも何でもなく。ただ死にたくなくて、固い胴着を欲しがっているだけだと。

「猿。黙っておれ」

「は。誰にも申しませぬとも」

藤吉郎は、にこにこと笑って、頭を下げた。

俺はただ、死にたくなかった。撃たれても、刺されても、生き延びたかった。その一心で、固い胴着を欲しがり、それを売ってくれる南蛮人をもてなしただけだ。

なのに、俺はいつのまにか。「新しい時代を切り拓く、革新の人」にされていた。天下布武の魔王にして、南蛮渡来を受け入れる、時代の先駆者。そんな大層な看板が、また一つ、俺の背中に貼りつけられていた。

第47話 南蛮の胴

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BEYOND THE STORY

物語のあとに、残るもの。

『信長の野望 本能寺は変』は、戦国一の臆病者が「ただの優しい人間」に戻りたくてもがく物語です。

冬野 結fuyuno yui

家族と、技術と、その間にこぼれ落ちるものを。
読後、少しだけ世界の見え方が変わる物語を書いています。